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ブランディングデザイナーの西澤明洋さんと「働き方」について対談してみた。 「ワーク」と「ライフ」を分けるなんてナンセンスなんじゃないかという話になった。

TOP対談 シリーズ「リソウノソシキへの旅」



「ブランド」。家電自動車洋服生活用品、性能や品質、値札についた価格でさえ似通ったものがあふれる21世紀。人が何かを選択する動機は、らしさや心地よさという捉えどころのない何かにある。企業を取り巻くその何かはブランドと総称される。商品、サービス、デザイン、社員、遵法、ロゴ、環境、社長。PR、広報、CM、社屋、売上、利益、資本金。それらのどれかかいくつかかその全部か。ブランドとは、何か。
株式会社エイトブランディングデザイン(https://www.8brandingdesign.com/)。ブランディングデザインを専門とする集団である。西澤明洋代表。2019年、その卓越した手腕によりオズビジョンのミッションステートメントが構築され、ロゴなどの各種クリエイティブが蘇った。オズビジョンというブランドが再定義された。
同年9月18日。オズビジョンが本社を構えるビルの1Fにて「おでかけクリエイティブナイト」なるイベントが開催された。クリエイティブナイトとはエイトブランディングデザインが主催する参加型イベントである。各界一流のクリエイターをゲストとして招き、西澤代表とのトークを中心に、広く各分野の理解を深めるものとなっている。普段はエイトブランディングデザインのオフィスで開催されるが、オズビジョンの鈴木代表との対談ということで出張形式での開催となった。テーマは「働き方とデザイン」。集まった方々約40名。その約2時間を再現する。



西澤:「鈴木さん宜しくお願いします。ではまず乾杯といきましょう。乾杯。―――。さてさてみなさん『オズビジョン』のこと、あまり詳しくは知らないって人が多いと思うんですよね。そして何でここにこの二人がいるんかい、と思ってらっしゃる方ばかりだと思うんですよ。なんでまずは自己紹介からいきましょうか」


西澤さんのトークは「痛快」である。実はイベントが開催されたこのスペース、ゲストも含めてビール飲み放題。対談はビールグラス片手の乾杯から始まった。冒頭からどこに向かうかは飲み干したビールの量次第という前例のないものとなった。



全く知られていないけど素晴らしくいい会社

鈴木:「はじめまして。株式会社オズビジョンの代表をしている鈴木と申します。37歳です。オズビジョンの他にPollet株式会社の代表もしています。山梨から東京に出てきて24歳のとき今の会社を立ち上げました。現在はポイントモールの運営を主力事業としています。『ハピタス』といいまして、簡単にご説明すると、楽天などのECが3000社連なっているサービスで、ハピタスを利用いただくことにより現金や電子マネーに交換可能なポイントを獲得いただけるというものです。現在約300万人にご利用いただいており、サービス内での年間流通総額は1000億円を超えています。特長の一つとしてNPSというユーザーによるサービスの推奨度というものを最重視して運営しているということがあります。このNPS、すなわちハピタスを友人や知人にどの程度勧めますか、という度合いをいかに高められるかということに最大限の関心を寄せて日々過ごしています。組織面の特長としてもですね、自分たち従業員も最高の存在であろうよ、ということを重視しており、eNPS、employeeNPS、つまり当社の従業員自身が、自社のことを友人知人にたとえば入社を勧めてしまうほどのファンであろうよ、ということを測定指標にしています。このような組織に関連するいくつかの試みがベストセラーとなったビジネス書『ティール組織』で取り上げていただいたり、雑誌Forbesに取材していただいたりしました。こんなところですかね」

西澤:「ありがとうございます。すごいなあ。じゃ私も少しやっときます。ブランディングデザイナーでエイトブランディングデザインという会社の代表をしています。最近また新しい本を出しまして。『アイデアを実現させる建築的思考術』というもので日経BP社からもうすぐ出ます。私は建築学科出身なもんで建築的な思考に通じるプロセス論について書いています。9月20日に発売になりますのでどうぞみなさん宜しくお願いします(笑)。さてではオズビジョンさんについて伺っていきたいんですが、オズビジョンというのは?」

鈴木:「先程言った通りですが2006年、24歳のときに立ち上げた会社です。ハピタスを運営しており、もう一つグループ企業としてPolletというサービスを運営するPollet株式会社があります。特に上場など考えず株主は私一人でやってきました」

西澤:「上場考えないとかスタートアップでは珍しくありません? 資金調達とか大丈夫なんですか?」

鈴木:「あんまりお金はいらないもんで。あるに越したことはないですが(笑)。今年西澤さんにも手伝ってもらって新たにした当社のミッションステートメントは『Be a big fan』ですよね。主力事業ハピタスは先程ご説明したようにポイントバックモールサービスなんですが、Polletはオープンチャージドサービスというものです。簡単に言うと、誰もが持っている数々の散らばっているポイントや余った金券、切手やはがきなんかを一か所に集めて外で使えるようにしよう、というものです。で、ハピタス、Polletに共通するのは『両方ともハレの消費ニーズを喚起する』ということなんですよね。ハピタスで獲得したポイント、Polletにチャージしたポイント、使用する場面を調べてみるとどちらも旦那さんへのプレゼントや自分へのご褒美とかのポジティブな場面で使われるんです。厳しい家計の足しにといったことはあまりなく、むしろ家計とは切り離された場面でご利用いただいている。使うことが楽しい、夢中になる。お金も大事ですが、そういうファンになってしまうような事業を創造していくことをお金以上に大事に考えています」

西澤:「なるほど。で一方でいろいろ組織面での取り組みもしていますよね」

鈴木:「そうですね。組織や文化づくりでもいろいろやっています。いくつかあげますとまず『face to face』といういわゆるユーザー様との交流会ですね。ハピタスやPolletをご利用いただいているユーザーさんを毎月お招きして。普段働いているオフィスの中にまでお越しいただき交流するというものです。サービスの向上やBe a big fanの達成を狙っています。ほかにはたとえば『完全自律型勤務制度』ですかね。これは働く場所、時間、働くか働かないかまですべてその人の判断で決めてよいというものです。ほんとうに働いた時間が月に一分でも給料が満額出ます。これは正月だから休むとか会社には来るものだからとかではなく、自分がどの場所どの時間働くと一番成果がでるかわかっているはず、だから自由にしよう、という考えにもとづいています。もう三年になるかな」

西澤:「ほぉーっ。面白い。でこんなオズさんですが私どもで今回リブランディングのお手伝いをさせていただきました。そうしようと思った理由についてお話いただいてもいいですか」

鈴木:「一番の目的は採用です。採用に苦労していました。あのですね、会社に来てくれると来てくれた人みんな言うわけですよ。いい会社ですね素晴らしいですねって。ところがオズビジョンっていっても全国400万社以上ある会社の中ではもちろん圧倒的に知られていないわけです。そこで知ってもらったり覚えてもらったりするためには、自分たちのコアやエッセンスをしっかり固めることが必要だと思ったわけです。そこで著名なデザイン会社とかにお願いしてリブランディングのプレゼンをしていただいたりしたんですがなんともしっくりこない。そんなときある知り合いを通じてエイトさんのことを聞いた。連絡してみると『社長と会ってみて気に入ったら受けてやらんでもない』と(笑)」

西澤:「はははは!鈴木さんそんなこと言ってないですよ(大笑)」

鈴木:「で始まったらすごく深くて。うちが十三年間なぜやってこれたのか、やってきたことの因果関係はどうなのか、このあたりを一緒に徹底的に詰めていくことができた」


ごく冷静に言ってしまうとオズビジョンという会社を「知っている」人は全国レベルでみると皆無というのが正しいだろう。この当時もそれ以前もオズビジョンは本当に採用に苦しんでいた。その状況を脱すべくオズビジョンは複数社に支援の打診をしていた。著名な人事コンサルティング会社、総合広告代理店、外資系PR会社。公平に言ってオズビジョンは丁寧な事前レクチャーを施し各社はそれぞれの特性に応じて誠実なプレゼンをおこなった。しかし全くハマらなかった。『社長と会って気に入ったら受けてやらんでもない』とあるが、エイトブランディングデザインの真意は『会社の代表や幹部がどれほど本気かどうかがいちばん重要』という点にあったと当時を知る私は感じる。



NPSが最重要経営指標って。むちゃくちゃレアです

西澤:「ではそのオズさんの事例の紹介も兼ねて少しうちのやり方を説明させていただきますね。実はこれまで『ブランディング』ということをきちんと説明できる人はいませんでした。最新のマーケティング手法とか言われたりして。ブランディングとは簡単に説明すると『伝言ゲーム』みたいなものです。いかに『伝えていくか』にポイントがある。それをデザインを使ってやっていこうというのが『ブランディングデザイン』です。『デザイン』という言葉がありますが狭義と広義の二種類の捉え方があります。一般に色とかカタチのことを指すのが狭義のデザイン。従来の手法、デッサンとかレタリングで表されるものです。対して広義のデザインっていうのは色やカタチの前にある考え方や思想も含んでいます。僕が捉える企業のデザインって経営における会社の考え方や思想も含まれている。その考え方や思想とズレのないようにしながら最終的に色やカタチに落とし込んでいく。『フォーカスRPCD(https://www.8brandingdesign.com/flow/)』という独自のブランド開発手法を使っています。担当させていただいたIT企業、ビールメーカー、神社、全部同じやり方でデザインしています。でオズさんですが『採用を何とかしたい』とのご依頼でした。珍しいです。普通は売上を上げたいとかなんですけど。採用だと。じゃあやりましょう、とまずはですね、リサーチから入っていくんです。オズさんやオズさんの事業を取り巻く市場や社会を深く掘り下げていく。ここがとても大切で普通三カ月から四カ月ぐらいかけます。オズさんの場合半年ぐらいかかりました。そのプロセスを通じてオズさんの本当の強みというのを発見していくんですね。主力事業ハピタスの成功要因、ティール組織などで知られる組織文化、組織的に根付いている顧客志向、経営理念に基づくより人間らしい経営スタイル。オズビジョンの本当の強みは何かに接近していく。これがブランドの全ての基礎になる」

鈴木:「そんな西澤さんのアプローチから見えたのが『うちの最大の強みはNPSを経営の最重要指標の一つにしてきたこと』にあると。みなさんNSPってあまり馴染みがないと思いますので簡単に説明させていただくと、前にも言ったとおり推奨意向度を測る指標の事です。自分ところのサービスや商品のユーザーに一つだけ質問をするんです。そのサービスや商品を友人知人に勧める可能性はどれぐらいありますか、と。最高に勧めたいは10点、全く勧めたくないは0点。全部で11段階のうちどれですかと。で10点と9点つけた人の割合と、6点から0点を付けた人の割合を比べる。するとプラス20とかマイナス15とかいろいろです。これを指標とするのがNPS。もちろんプラスの方がいいとされます。世界的な企業、アップルやグーグルなども導入しています。このNPSをもう何年も経営の最重要指標の一つとしてきました。振り返るとこのNPS向上にこだわりぬいてあらゆる意思決定を行ってきたことが実はうちの最大の強みであったということがわかったわけです」

西澤:「鈴木さんたちとセッションを進めていくと、NPSを土台としたうえですごく考えながらビジョンを推し進めようとしていることがどんどんわかってきたんですね。よしここを精度高くまとめようと。あのですね、皆さんこれだけ覚えて帰ってもらいたいんだけど、ブランディングとは『他と差異化すること』、『伝言ゲームを促進させること』です。マーケティングと違うのはここ。マーケティングは『いかに売るか』がゴールです。一方ブランディングは『いかに伝えるか』、しかも『伝言的に伝わるか』が鍵です。そんなブランディングの視点からすると『NPSを最重要経営指標の一つにしている』という差異化ポイントはむちゃくちゃレア(笑)。会社なんだから普通は売上利益でしょ(笑)。NPS。これですよ。僕らがお手伝いする前からずっとこの戦略でやってこられてきた。これを軸にまとめていくとこうなります。『オズビジョンはハピタスを運営する会社』から『オズビジョンはユーザーも社員もファンになる事業を立ち上げる事業創造会社』であると。ハピタスもそう。Polletもそう。NPSを軸にしてこれからユーザーも社員もファンになる事業を次々に創造していくんだと。いいですね。これからもたくさんブランディングでお手伝いさせていただけそうで(大笑)。宜しくお願いします(笑)」


NPSを重要指標の一つとしている会社は、今でこそ日本にも数多く存在する。オズビジョンがNPSを追い始めたのは2012年。NPSとは何かを知る企業もほとんどなかった時代だ。関連する書籍が出版され始めたので主要な社員全員で読んだ。これだけじゃ足りないとその書籍の著者、日本初のNPSコンサルタントにいきなり連絡をして「顧問になってくれ」と頼み込んだ。稚拙だったかもしれないが本気だった。振り返るとNPSに係る膨大な現場ノウハウが溜まっていた。振り返ると今日の最大の強みになっていた。




性善説の方が効率がいいじゃないですか

西澤:「では鈴木さん、いよいよここから今日の本題に入っていきたいと思います。今日のテーマは『働き方とデザイン』です。働き方というと最近では働き方改革とか何かと話題ですが、環境や条件をよくすることというイメージがあります。オズさんは先程お話いただいたように最先端のモデルのような気がするんですが、たとえば完全自律型勤務をはじめたきっかけは何だったんですか」

鈴木:「自由な勤務形態がいいんじゃないか、と思い始めたのはかなり前です。きっかけは『夏休み』。まだマンションの一室でやっていた時に社員が言ってきたんです。『なんでうちには夏休みがないんだ』と。そう、確かに夏季休暇とか年末年始とかなかった。私は『有給取って休めばいいじゃん。なんで会社が指定しなくちゃいけないんだ』とこうずっと思っていたわけですよ。そこで三年ぐらい前に、全部合わせると140日ぐらいを休めるように設定して『いつでもどうぞ』とやった。そのかわり世間でいうところの夏休みとか正月休みとかは指定せず『自分で自由に決めてね』と。しばらくそれでやってみたんですが、それでも上限があることには変わりないわ、有給付与日数と絡めて計算するのもめんどくさいわで『もう完全に好きに休んだらいい。それどころか時間も自由にしていい。働くか働かないかもあなたが決めろ』ってしたいなと。何か管理されたりしたりするの、私、すごく気持ち悪いんです」

西澤:「それすごくわかる!」。

鈴木:「それが完全自律型勤務というやつです。でも導入するならするで、労務管理、評価方法、もろもろ考えなきゃいけないことはあります。そんな折、長野県にある食品メーカー、伊那食品工業を見学する機会があったんですね。48年間増収増益、『年輪経営』で知られ、各界の有名企業も見学に訪れる会社です。その時ひらめいたんですよ。というのはですね、広大な敷地の一角に農機具が無造作に置かれていた。聞けば社員はいつでも好きな時に借りることができると。自宅での利用もまったく問題なし。ところが貸し出し用の記録簿も盗難防止用のカギもない。『これ大丈夫なんですか』って聞いたら『性善説の方が効率がいいですからね』って(笑)。さらっと(笑)。確かにそうだなって思ったんですよ。完全に自由な勤務をさせといて、もしサボるやつがいたらそういう人を採用した側の責任だと。サボりを咎めないチームの責任だと。それを抑止しようとしてあらゆるケースを想定してルールを設ける方がよっぽど非効率的だと。で、完全自律に。とりあえず半年やってみて、こりゃルール無しじゃだめだとなったなら一切やめようと」

西澤:「聞きたい聞きたい。トラブルってありました?」

鈴木:「出ませんでした」

西澤:「おーっ、それはすごい」

鈴木:「たとえばエンジニアなんですけど、リモートでいいよってしたら会社に来なくてもいいし喜ぶだろうなと思ってたんですね。ところが実際に始まると、エンジニアチームで集まって『リモートの取り方についてみんなで考えよう』、『こういう時はいいけど、こういう時は配慮しよう』と自分たちで決め始めたんです。これもし会社がルールを設定していたら『会社が決めたルールに従ってんだから、いいだろ』ってなっていたと思います。全部取っ払うから自分で考える、ってことになった」

西澤:「なるほど。エンジニア以外はどうだったんですか?」

鈴木:「たとえばママさん社員。よく使ってますね。その他では、そう、ついこのあいだは祖母がお亡くなりになり地元に戻らなきゃいけなかった社員が利用してましたね。変な気兼ねなく戻れてよかった、って」

西澤:「そういうのも『ティール型組織』ならではっていうことなんですかね。書籍では組織に状態によってレッドとかグリーンとか色で表現していて、たしか鈴木さんはどこかで『今のオズビジョンはグリーンだ』っておっしゃっていたと思いますが」

鈴木:「『ティール型組織』はあまり意識していません。分厚くて深い本なので私がちゃんと理解していないってこともあるかもしれませんが、私が理解している『ティール型組織』というのは『人間性をはじめとするその人ありのままの部分を出しやすい組織風土』のことだろうと捉えています。一方当社は『自己実現する集団で在る』ということを理念に掲げ、『どれだけ人間にとって不自然な部分をなくせるか』ということを追求しています。その点で相通じる部分があるのかなと。いまは『ルールをできる限り外す』ことを目指していますが、何もかもなくしてしまったらうまくいかないのでそのバランスを見極めているという段階ですかね」

西澤:「そのバランスという点で、先ほどのエンジニアさんたちは自分たちで決めたルールの中でうまくやっていらっしゃる?」

鈴木:「エンジニアとかどの職種でというよりは、人によってリモートする人はするし、会社に来たほうがいいという人は来るっていう感じになってますね。職種によってこう、というのはなくなりました」


「自由にすれば部下は自ら考えて善意で行動する」。志のある経営者やマネージャーであれば誰もがそうでありたいと願っているだろう。しかし怖い。最低限のルールだけは設けないと、と。その小さな小さな保険は部下に対する雄弁なメッセージと化する。「完全には信頼していないからな」。これを乗り切る勇気たるや計り知れない。しかし乗り切らねばたどり着けない。人間性を中心とするマネジメント、などとよく言われる。しかしこの競争社会の中で部下を鼓舞し、競合を蹴散らし、自社というものを背負って走り抜ける責任を負う人たちにとって、ことはそう簡単ではない。相手を信じきるという難題を改めて思った。




デザイナーの働き方って、ライフとワークに分けられるの?

西澤:「なるほど。鈴木さん、そういう働き方をやっていらっしゃると他の会社はどんな風に見えるんですか? スタートアップの会社ってそういう自由なのが多いんですかね?」

鈴木:「スタートアップに多いかどうかはわかりませんが、エンジニアを中心とする会社には多いんじゃないですかね。就業規則もないに等しいとか。会社の机の間で寝てたりとか。いいか悪いかは別ですけど」

西澤:「今日のテーマは『働き方とデザイン』。さて『働き方』というと『ワークライフバランス』って言葉が良く出てくる。このワークライフバランスって何だって僕ずっと思ってるんですよ。ワーク、ライフ、バランスをとるってどういうことって。たとえばデザイナーの働き方ってワークとライフに分けられるのかなって思うんです。これはほかにもエンジニアとかスペシャリストと呼ばれる人に言えることかもしれない。僕にとってはデザインイコールライフでありワークではない。これをあまり言うとブラック企業みたいに聞こえるかもしれませんが(笑)。働くというのはもちろん『働く』ということなんだけど、その先の達成感、鈴木さんとこでいうところの自己実現ができたのかどうかが大事であって、それって『ライフ』だろ、と。個人的にはそう思う。そこで鈴木さんに伺いたいんですが自己実現できる働き方ってのをどう捉えているのか。何をもって自己実現というのか、このあたりについて聞かせてください」

鈴木:「端的に言えば、他の人からみてキラキラしているとか、単純に楽しそうとか。それって努力してるとかでなくもう単にやりたくてやっちゃってる状態だと。なかなか自己実現の定義というとしっくりくるものがなかったんですが、今近いなと思っているのは『本領を味わう行為』なのかなと。自己実現というと『ありのまま』という言葉で解釈されることがあります。眠くなったら寝るとか。そういうことじゃないと思うんですよね。自己の本領を発揮していることを味っていることそれ自体が自己実現なんじゃないかと」

西澤:「おおーっ! それって『やり切った感』とも言えますかね? 自分の実力を出し切った、とか?」

鈴木:「うーん。なんかこう『気づいたらやっちゃってる』という感じ。なんかやだやだといいながら結局やっちゃってることってあるじゃないですか。振り返ってみるとそんなことばかりだったなってこと。その時はいやだ辛いって感じてたんだけど今にして思えば楽しかったな面白かったなという。つまり味わっていたんだなと後で感じるんですよね」

西澤:「僕らエイトブランディングデザインの話なんですけどね。働き方とかどういうふうに仕事をしていくかということを僕らも考えます。うちの場合、働き方においていちばんモヤっとしたのは『分業』なんです。実はデザイン業界において分業はごく自然なことなんです。ところが僕が育った建築のデザイン世界では分業ではないんです。たとえば建物を建てる時にはヒアリング、プランニング、構造設計、意匠設計、ディテール設計。見積りし、積算し、クライアント承認を経て着工。できたら引き渡し。これを建築士一人が背負って立つ。素敵だなあって学生の頃から思ってました。やり切った感あるよなあと。グラフィックや広告のデザインの世界は真逆。クリエイティブディレクター、アートディレクター、プランナー、コピーライター、グラフィックデザイナー、あとアカウントプランナーとか何をするのかよくわからない人たちがいっぱい出てきたり(笑)。誰が何やる人なんだって(笑)。僕、そういうのにずっとモヤっとしてたんですよ。で僕がデザイン会社やるときにはそういうのやめようと。うちには基本的にはブランディングデザインナーしかいません。デザイナー、アシスタントデザイナーという区分はあるけどやることはいっしょ。ブランディングデザインしかしません。それぞれの違いはやれる範囲だけです。戦略からやれるのがブランディングデザイナー、デザイン一式できるのがデザイナー、アシストができるのがアシスタントデザイナー。噺家といっしょです。真打ち、二つ目、前座とかありますが腕前の区分にしか過ぎず、落語を披露するという役目は一つ。やり切るというのはそういうことなんじゃないかなと思ってます。オズさんはどうなんですか。やり切るとか達成感とかはどんなふうに捉えていますか?」

鈴木:「自分で決めているかどうかかもしれません。たとえば当社ではクレドという行動基準を定めています。他の会社にもクレドのようなものがあるんですが、どれも間違っていなくって大抵はいいものですよね。ほとんどがいいものであるにもかかわらずその体現の度合いにはものすごい差がある。クレドは中身よりも浸透が大事。その浸透なんですが浸透するかどうかは自分自身の価値観となっているかどうかにかかっています。実は今のクレドは昨年から今年にかけて刷新したんですが、携わったのは挙手をした人たちです。もちろん私も入っていたんですが多数決は絶対にせず合意形成できるまで議論し尽くした。仕事もそうで、自分で決めているか否かがやりがいなどにつながるんじゃないかと思いますね」

西澤:「伺っているとオズさんの『やり切る』も僕らの『やり切る』も『自分の責任でやる』ことが共通して大事だと考えているってことでしょうかね」

鈴木:「そうですね。うちは職種など一定の範囲はありますが、人によってはバンバン越境します。マネージャーなどに相談することもありますが、基本的に越境する範囲も自分で判断しています。そうなると失敗しても納得できる。自分で決めているから」


自分で決めて自分で挑戦し自分で刈り取る自由と責任。たとえチームでの共同作業であろうともその自由と責任を放棄しないこと。それこそがエネルギー源だということは間違いないと思う。自由を謳歌することの最大の目的が自分の人生を生きるということであれば、ワークとライフとは分離して語られるものなのか。ワーク中に今週末の私的な予定のことが全く頭をよぎらない人などいるのか。ライフにおいて一秒も仕事のことを考えない人などいるのだろうか。



西澤:「なるほど。自分でやることを決めて、自己実現というか達成感を得る。すばらしい。これまでお手伝いをさせていただいてきたわけですけど、これからオズさんどうなっていくのかな、と思うことが一つあって。オズさんは一つの大きな会社で複数のサービスをするようになりたいのではなく、100社100通りのグループでありたいということですよね」

鈴木:「そうです」

西澤:「となると会社が100個できて100人の社長がいるわけじゃないですか。どうやってやっていかれるんですか。社員の方みんながみんな社長になりたいわけじゃないでしょ」

鈴木:「必ずしも100人を全部自分の会社から輩出しなくてもよいと思ってます。別の会社をやっている人と一緒にやってもいいでしょうしね。とは言うものの100個の会社をもったことなんかないのでわかりませんけど(笑)。思いだけはもってます」

西澤:「しつこく聞くんですが何で100社なんですかね。一社の中に100個サービスがあってもいいじゃないですか」

鈴木:「事業と組織は切り離すことのできない表裏一体のものだと思ってるんですよ。事業が100あればそれにあう組織や文化も100あると考えています。だからPolletも別会社なんです。ま、100社それぞれ違ったほうがなんか楽しそうですし(笑)」



西澤:「話題を変えていきましょうか。100社100通り、自分で決めて自己実現を目指していかれると。そこで伺いたいんですが、私は建築出身という事もあり働く場所というものにすごく興味があります。いろいろなデザイナーのところに趣味のように月2、3回でかけたりね。で鈴木さん、オフィスってどう思います? 完全リモートが可能なオズさんからみてオフィスっているもんなんでしょうか」

鈴木:「完全リモートとはいっても出社している社員はいますから必要かどうかで言えば必要ですね。自宅で仕事ができる環境の人もいればそうでない人もいると思いますし子供のあるなしによっても違うでしょう。さっきも言ったようにオフィスでやりたいって人もいますし。何をするかにもよりますね。たとえば毎朝全社でやっている朝会、あるいは半年に全員が集まってやる総会、このあたりまでうちはリモートでの参加、OKです。でも冒頭にお話したface to face。これは直接お会いするからこそいい。オフィスの中まで見せるからいい。となるとオフィスはあった方がいいよなあ、となります。一か所に集まる場というのはなくなることはないと思いますね」

西澤:「今後いろんな会社でリモートを採り入れようというふうになると思うんですが、リモートのいい所わるい所というのを教えてもらえますか。たとえばうちはリモートは向いていないと思うんですが、サテライトはつくりたいと思っているんですよね。千葉のいすみという場所に。そうそうオズさんの合宿でも使った辺です。あのあたりを今しらみつぶしに見て回ってるんですよ。仕事をからめての合宿、鈴木さん、あれよかったでしょ」

鈴木:「よかったですねえ。普段とはまったく違う雰囲気で発想もテンションも変わる」

西澤:「離れた場所でやるのはぜんぜんありだなと思ってるんです。人はやっぱり動物的側面もあって、いつもと違う場所、特に自然の中に身を置くと感覚も変わる。あ、話戻しますね。リモートのいい所とわるい所」

鈴木:「目的によると思いますね。うちみたいに仕事における場所時間タイミング、自分で決めた方がパフォーマンスが上がるということであればリモートがいいですし、そうでないならやめた方がいい。効率という視点もありますね。たとえば子供が熱を出した。午前中病院に連れて行かなきゃならない。リモートがなければ病院から自宅に戻りその後で会社に移動しなければならない。リモートがあれば病院から自宅へ戻りそのまま仕事ができる。効率がいい。そのほかにもたとえばどうしてもお昼に情報収集のためチェックしたいイベントがあるとか。移動会社移動イベント移動会社また移動。これも非効率です。リモートだと効率的にできる。これがメリットの一つ。もう一つは言葉にすると『チームレジリエンス』っていうのになるんですが。しなやかなチーム、回復力のあるチーム、といったニュアンスです。さっきお話したように会社で決めたルールなしで完全リモートにすることによって『うちのチームではこうやろう』と話し始めます。ルールがないがゆえに自分たちで自分たちを制御していこうとするメカニズム、一般的にピアプレッシャーという力が働き始める。それによりチームの自律性も自然に上がっていく。これがまたいいんです。リモートをやってみるとわかりますが、見られてない分、報告が密になる人もいるんですよ」

西澤:「あー。ちゃんとやってますよ私ってね」

鈴木:「そうそう。リモートの方が仕事を一生懸命にやる人も出てきたり」

西澤:「ちなみに全く出社しない人っているんですか?」

鈴木:「今イタリアに在住して手伝ってくれている人はほぼ出社ゼロですね」

西澤:「イタリア! その方はイタリアのマーケットの仕事をしているわけではなくて?」

鈴木:「採用の支援です。応募してきた方をコントロールしたり面接したり」

西澤:「面接?! イタリアでするんですか! へえ、最近はそんなふうになってるんだ(笑)」

鈴木:「半年に一度の総会とかは来たりしますよ」

西澤:「へえーっ。おもしろい! ね皆さん。今聞いていただいているようにかなりユニークな会社なんですよオズさん。私から質問してるばかりでもあれなんで皆さんから何か聞きたいことがあれば。いかがですか」



この後会場からはいくつもの質問が寄せられた。「採用時に対象者が性善説のタイプか否かをどう見分けているのか」、「大企業などルールが重視される環境において性善説に切り替えていくためには何が必要か」、「業種によって働き方改革に制限はあると思うがどう思うか」、「働き方についての考え方に世代間格差を感じることはあるか」。そのいずれもが、自分らしく自律的に働くことの是を認めながらも、ニッポンノカイシャという機構の中でそれを実現することの難しさを示していたように感じた。だがオズビジョンが今に至るまでには、数々の流血が背景にあったことを私は知っている。試行錯誤、紆余曲折、実験実験実験の歴史である。対談で出てきた伊那食品工業にももしかしたらそんな歴史があるのかもしれない。「働き方」。シンプルだが奥深いテーマ。人と労働、ワークとライフという深淵に続くテーマであるからこそ、これからもその試行錯誤は途絶えることはないのだろう。冒頭からビールを解禁しての対談。今回の話はやけに深く感じた。こういうのもいいなと思った。



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